細菌は、人の「腸」や「膣」などに存在しており、健康と病気に対して重要な役割を果たす。
特に、腸内の細菌は、免疫系のトレーニング・有害な病原菌の増殖防止・腸の発達・ビタミン生成(ビタミンKなど)を行う。
このため、人と細菌とは共存共栄の関係にある。

Image by pixabay
しかし一方で、胎児の腸内の細菌の種類は、無菌もしくは少ないと考えられている。
赤ちゃんは、産後の時間が経過するにつれて、腸内の細菌の種類が増加する。
これは、赤ちゃんの腸内の細菌は、「出産中(膣)」や、産後の周辺環境から取り入れることを主な由来とすると考えられているからだ。
このため、分娩中における赤ちゃんと母体の膣内細菌との接触は、赤ちゃんの腸内細菌環境の形成に大きく影響する可能性がある。

そこで、問題となるのは、膣内細菌との直接接触が生じない「帝王切開」の場合だ。
一部の疫学データ(PMC)では、「アトピー性疾患」や「ぜんそく」などの疾患が、経膣分娩よりも帝王切開に多く現れることを示している。
なお、厚生労働省によると、日本の帝王切開率は24.8%(2014年)となっている。
つまり、4人に1人が帝王切開を行っていることになる。

このような帝王切開による赤ちゃんの疾患を抑制するため、ヘリシンキ大学のカトリ・コルペラらの研究チームは、母親の膣内細菌を赤ちゃんへ播種(移植)を試みた。しかし、うまくいかなかった。
そこで、この代替として、研究チームは、母親の腸内細菌を赤ちゃんへ移植することを試みた。
つまり、母親の糞を赤ちゃんに飲ませたことをCellに論文発表した。

具体的には、7人の母親から帝王切開で生まれた赤ちゃんに対して、糞便を母乳で薄めて与えた(糞3.5または7mgに対して、母乳5mリットルで薄める)。
その結果、自然分娩の赤ちゃんと同様の腸内環境が、帝王切開の赤ちゃんに僅か3週間以内に形成されたとのこと。
通常、この形成には、1年かかるとのこと。
なお、実験中の赤ちゃんは、いかなる悪影響も生じなかった。
しかし、研究チームは、母親の糞便に有毒な細菌(B群連鎖球菌やヘルペスウイルスなど)が無いことを確認したうえで実施したため、
医師の検査管理の無い移植は非常に危険だと警告している。
犬・ウサギ・チンパンジーなどの動物は、糞便を食べる。
かくいう私も、赤子の頃に自分の糞便を自ら食べたらしい。
私は全く覚えていないが、大人の今でも、たまに家族の議題に上がり、からかわれる。
昔は少なかったアトピー性疾患が多くなってきたのは、近代の医学の進歩(帝王切開)が一因かもしれないが、
その対策として、赤ちゃんに糞を飲ませるのは、何とも複雑な心境だ(経験者は語る)。